夕立の激しい雨音が耳を叩く。
まだ日没前だというのに、雨雲のせいで日が翳り、室内は暗い。
薄闇に閉ざされた宿の一室で、僕は呆然とつぶやく。

「なんだこれ……」

いつまで経っても戻らないヌビアに痺れを切らし、
ロイヤルスイートに駆けつけた僕が目にしたのは……恐ろしい光景だった。

ベッドにはザジが横たわっていた。
眠っているというよりは意識を失っているようにみえる。
異様なのは、彼女が一糸まとわぬ裸だということと……顔に恍惚の表情を浮かべていることだ。
床にはヌビアがうつ伏せに倒れていた。
むきだしの下半身が痛ましい。
どのような怪力によるものか、引き千切られた彼女のスカートがかたわらに放り出されていた。
どちらも股間から何か白濁した液体を垂れ流している。
部屋に充満するのは、むっとするような雌の淫臭。
そして、何か嗅ぎなれない、生臭くて、青臭い動物的な異臭。

「なんだこれ、なんだこれ、」
僕は混乱していた。
いや、わかっている。これはどう見ても……暴行の、跡だ。
とてつもなく暴力的なオスが二人を蹂躙していったのだ。
こんなことができるのは……ヤツしかいない。

僕は薄暗がりに視線を走らせる。
右を見る。左を見る。背後を、ベッドの下を、天井を。
そしてどこにもヤツの姿がないことを確認して、ようやく理性の欠片を取り戻すことができた。
僕は怯えていた。
情けないことに、二人の仲間がこんな風にされているのを見つけて、まず頭に浮かんだのは、
ぼろ雑巾のような有様の二人を気遣う気持ちや、
この悪魔の所業に対する憤りなんかではなく、
陵辱者への恐怖だったのだ。

僕は震える膝を叱咤しながら二人に近寄る。
どちらも目を背けたくなるような状態だったけど、生死に関わるような外傷はなかった。
急を要する事態でないのは救いだった。治癒の魔法一つ使えない僕には、これ以上はなす術がない。

とにかくキサナに知らせなければ。彼女なら応急処置くらいはできる。ヤツが戻ってくる前に……。
そこまで考えて僕ははたと気づいた。
ヤツが戻ってくる前に? なら、ヤツは今どこにいるんだろう?
あの化け物が地下でザジを犯し、今こうしてヌビアも毒牙にかけたのは間違いない。
ぞっとする想像だけど、ヤツは僕らを一人ずつ犯し、弄び、壊していくつもりなのだ。
そして今ここにいないということは……次の標的はキサナか、あるいは……。
「アリー!」
最悪の想像に思い至るより早く、僕は駆け出していた。

* * *


帳場は静まり返っていた。
普段なら探索帰りの宿泊客でわきかえる頃合なのに、突然の豪雨のせいか宿は人気がないままだ。
さっきまで帳場に張り付いていた宿の亭主も、雨戸を閉めに回っているのか、姿を消していた。
そして、キサナの姿も見当たらない。

こんなときに、彼女はどこへ行ってしまったのか。
まさか、もうヤツに……。
恐ろしい予想を振り払い、僕は帳場を走り抜ける。
ザジとヌビアを治療するためにも、まずキサナと合流するつもりだったが、
姿が見えない以上、予定を変更せざるを得ない。
一刻も早くアリーのもとへ駆けつけたい。キサナを捜している余裕はなかった。

階段を駆け上がり、アリーの部屋を目指す。
息があがり、胸が張り裂けそうだった。
足がもつれそうになりながら木扉を蹴り開ける。ああ、無事でいてくれ……!

「ど、どうしたの? ジル」

転がり込んできた僕を、アリーはきょとんとした様子で迎えた。
ベッドの上で上半身を起こし、目を丸くしてこちらを見つめる。
僕は安堵で崩れ落ちそうになりながら、体に鞭を打ってアリーのもとに駆けつけた。

「アリー! ああ、アリー! 急いでここを離れないと!」
「なにを言っているの? ザジの様子はどうだったの?」
「詳しい説明は後だよ! とにかくキサナを捜して……」
「ねえ、落ち着いて、ジル」
「落ち着いてる場合じゃないんだ。早くしないとヤツが……」
ヤツが来る。
そう言いかけたところで、アリーの視線が僕を通り越して部屋の入り口に注がれていることに気づいた。
僕は呆けたようにアリーを見つめる。どうしたの? アリー。誰か、来ているの?
背筋に悪寒が走った。そして、アリーの口がゆっくりと開く。

「あら、ムックじゃない」

跳ねるように振り返る。
ヤツが……いた。
不快な嗤いを浮かべた、白い毛の塊。
ムックは、縦にも横にも大きすぎる体を窮屈そうに丸めながら、部屋の戸をくぐろうとしていた。

反射的に腰の得物に手が伸びる。
勝てるだろうか。ザジが、ヌビアが敵わなかったこいつに、僕が。
無理だ。わかってる。
でも、僕はどうなってもいいから、アリーだけは逃がす。
アリーだけは、汚させやしない。

「アリー。僕がヤツを足止めするから、その隙に逃げて」
僕はありったけの覚悟を込めてそう呟いた。
だけど、アリーは……ああ、アリーは自分一人逃げ出せるような人間じゃなかった。
「駄目よ。ジル」
そう言って、アリーは呪文を唱え始めたのだ。
わかってるよ、アリー。僕が命がけでも君を守ろうとするように、君も僕を見捨てるようなことはしない。
それでも、僕は君に逃げて欲しいんだ。
あの毛むくじゃらに君が汚されるなんて、僕には死ぬよりも辛いことだから。

そして、アリーの「スリープ」の魔法が完成した。
僕は薄れゆく意識の中で、アリーの言葉を聞いた。

「駄目よ。ジル。ご主人様に手をあげるなんて」

* * *


目を開けて最初に飛び込んできたのは自分の裸だった。
僕は背を壁にあずけ、半身を起こすようにして床に転がされていた。
うつむいた顔の視線の先に、むきだしの胸とお腹と二本の脚が見える。
鎧はもちろんのこと、胸のサラシも腰の布も取り払われた一糸まとわぬ状態。
覚醒しかけた朦朧とした意識の中で、僕はとっさに手で身体を隠そうとして、
後ろ手に拘束されていることに気がつく。

なぜ、こんなことに?
そうだ。ムックと対峙したあのとき、アリーの魔法で僕は……。
アリーが僕に「スリープ」を? なぜ? どうして?

「ああっ、んあああっ、いく、いっちゃうっ!」

事態を把握できずに迷走する思考は、突然の嬌声に中断させられた。
あたりをはばからず発せられたとびきり淫らな喘ぎ声。
それを聞いた瞬間、僕の心臓はびくんと跳ね上がった。
その声に聞き覚えがあったからだ。
何かを考えるよりも早く、反射的に顔が上がる。
そして、煌々と灯るランプの明かりの中、僕は見た。

――ムックに犯され愉悦の声を上げるアリーを。

面を上げた僕の真正面にはこの部屋の寝台がある。
その決して大きくはないベッドに、はみ出るような巨体を乗せて、醜悪な白い塊が胡坐をかいていた。
その毛の塊に身を埋めるようにして、エルフの娘の白い裸形が浮かび上がる。
限界までのけぞり、天井を振り仰ぐその顔ははっきりとは見えない。
美しい黄金色の髪が、汚らわしい獣毛にうずめられ、絡まり合う。
小ぶりの胸がふるふると震えていた。
生白いお腹は汗にまみれ、ランプの明かりを照り返しててらてらと輝く。
華奢な脚は大きく割り開かれ、規格外の物をねじこまれた痛々しい結合部をはっきりと見てとることができた。

その細い腰に回された毛むくじゃらの手が無遠慮に動く。
「うあ、あ……んはあっ」
アリーのか細い身体は玩具のように跳ね踊り、
更に深くねじ込まれた巨根に全身を痙攣させる。
反らされた喉から、うめき声のような喘ぎが絞り出された。

「アリー!」
僕は絶叫していた。
悪夢のような光景に頭を真っ白にされながら、ひたすら愛する女の子の名を呼ぶ。
「畜生! アリーから離れろ!」
視線で人を殺せるなら。罵声で人を呪えるなら。
僕は憎悪を込めてムックを睨み、怒りの言葉に喉をふるわせる。
けれどもちろんそんなものではムックの動きは止まらない。
それどころか、僕の叫びはアリーにすら届いていないようだった。

「あああ、ひっ、んあ、やぁ」
ぎしぎしとベッドを軋ませて、ムックの巨体が上下に揺れる。
赤黒いグロテスクなヤツの物がアリーを責め立て、
無残に貫かれた花弁からは蜜が飛沫となって飛び散った。
アリーはその都度悶え狂うような愉悦の声をあげる。

アリーのこんな、獣じみた淫乱な声を聞くのは初めてだった。
小さく喉を鳴らすことさえ恥ずかしがるアリーが、
達してもぎゅっと身を縮こまらせてこらえるアリーが、
こんな安淫売のような声をあげるなんて。
薬物を使われたのだろうか、それとも精神学の邪悪な術で虜にされているのだろうか。
そう考えると憤怒でこの身が張り裂けそうだった。


「あ! ……あ、あ、あ、んっはあぁああ」
ムックの動きが止まった。
かと思うと、ひときわ高い声とともに、アリーの腰がびくんびくんと跳ねる。
声が余韻を引いて徐々に弱まっていくのと同時に、アリーの全身から力が抜け、崩れ落ちる。
ムックは無造作にぐったりとしたアリーの身体を持ち上げると、自分の物を抜き放った。
どろり。
アリーの股間から、白くて粘度の高い、青臭い液体がこぼれ出す。
毛むくじゃらの口元がにたりと歪んだ。

一瞬、すっと頭が冷えた。そして直後に煮え立つような激情がこみ上げてくる。
こいつは、アリーの中に放ったのだ。
アリーは、この薄汚いムーク野郎の精を注がれてしまった。
「こ……殺してやる」
僕は涙を流し、怒声を張り上げていた。
ムックに対する殺意で頭がおかしくなりそうだった。

けれど、ムックはそんな僕の様子を見て、いっそういやらしい笑みを深めるだけだった。
その無骨な手でアリーの美しい金髪をつかみ、引きずり上げる。
「う……あ」
アリーはうめき声を漏らし、力なく顔を上げた。
ランプの灯りがその顔を照らし出す。
汗と涙にまみれた顔。だらしなく半開きにされた口。とろんとした瞳。
そこにあったのは、発情しきったメスの顔だった。

「……ごしゅじんさまあ」
アリーの口から信じられない言葉が漏れた。
こんなにぞんざいに扱われているのに、声音には淫らな悦びの響きさえあった。
そして、土下座するような格好でうずくまると、
今まで自分を貫いていた物にいとおしそうに顔を近づける。
「アリー!?」
彼女が何をしようとしているかを悟り、僕はたまらず叫んでいた。
そんなことをするアリーを見たくなかった。
だから、正気にかえってくれという願いを込めてその名を呼んだ。

「あ、ジ……ル……? ジル、目を、覚ましたのね」
「アリー……」
アリーは、今始めて僕の存在に気がついたという様子で振り返る。
その動きは緩慢で、自分の行為を中断されたことへの苛立ちさえ含んでいるようだった。
「アリー、そんなこと、やめて。正気に戻ってよ。君はそいつの魔法で操られているんだ」
僕は祈るように、切実に、アリーに語りかける。
だけど、アリーは僕の言葉に首を振って答えた。
「違うの……」
「アリー?」
「違うのよ、ジル。魔法じゃない。魔法だけじゃないの」
それはなんだか聞き分けのない子供に言い聞かせるような口調だった。
そう言いながら、アリーの手がムックの股間へと伸ばされる。
そして、まるで祭器を捧げ持つかのように『それ』に手を添えた。

「ひっ」
僕は思わず悲鳴を漏らした。
アリーが、まるでこちらに示すように持ち上げた『それ』は本当にグロテスクだった。
愛液でてらてらと濡れ輝くそれは、赤黒く、太く、長い。
男の性器であるというだけでおぞましいが、しかも、それは目の前の恐るべき陵辱者の持ち物なのだ。
ザジとヌビアとアリー、そしてひょっとしたらキサナをも毒牙にかけた凶器。
それを、アリーはいとおしげに撫でる。
「ムックには……ご主人様には『これ』があるわ」
その唇から、うっとりとした声が漏れた。
「とても素敵なのよ……『これ』でお腹の中を掻き回されると、何もかも、どうでもよくなっちゃう……」
そして、アリーは僕のほうをちらりと見ると、憐れむように言ったのだ。
「ごめんね、ジル。でも、あなたの指や舌の何十倍も『いい』の」



――ファッ、ファッ、ファッ
ムックの勝ち誇ったような笑い声が響き渡った。
僕は……僕はアリーの言葉に打ちのめされていた。
わかってる。これは彼女の本心じゃない。こいつが、こいつの魔法が言わせていることなんだ。
それでも、その言葉は、たとえ嘘でもまやかしでも、アリーの口からだけは聞きたくなかった。
アリーはムックの股間に顔を寄せると、目を細め、陶然とした表情になる。
「ああ……この匂い……オスの匂い。頭がおかしくなっちゃう……」
「アリー……やめて……」
搾り出すようにそれだけ口にした制止の言葉も、もうアリーには届かなかった。
「わたし、もう、男じゃないと満足できないの」
「!」
その可憐な唇から舌が伸ばされる。
アリーは、グロテスクなそれの幹につつと舌を這わせると、極上の笑みを浮かべて言った。
「おちんちん、大好き」

じゅるっ、ずっ、ぴちゃ、ぴちゃ、じゅっ、
アリーはもう僕の目をはばからなかった。
多分、僕の存在すら、既に意識の中から抜け落ちていた。
顔中を涎にべたつかせながら、舌をはわせ、しゃぶりつき、咥えたまま顔を激しく上下に振る。
アリーの、少しだけ幼さが残る愛らしい顔立ちが、淫らに歪んだ。
むさぼるようなその動きが時折止まったかと思うと、
口の中に溜まった、唾液と何かの分泌物が混ざり合ったものを、じゅるりと音を立てて飲み込む。
そして、僕が見たこともないような恍惚の表情を浮かべるのだった。

「あ……あ、……あ」
僕は、何もできなかった。
声をかけることすらできなかった。
何も考えられず、ただ胸の奥がぎりぎりと締め付け、嘔吐がこみ上げる。
恋人の変わり果てた姿を前に、僕はいつしか泣きじゃくっていた。

「やめてえ……アリー、やめてよう……」
僕はもうアリーを見ていなかった。
胸が苦しくて、嗚咽が止まらなかった。
ただ、目をつぶり、体を丸めて、しゃくりあげ続けていた。
だから、アリーたちが立てる淫らな音が止まっていたことにも、しばらく気づかなかった。


誰かの手が、男の子のように短くした僕の髪を撫でた。
その優しい感触に驚き、びくりと肩を震わせる。
顔を上げると、涙でかすんだ視界の中、アリーが僕を見下ろしていた。
ヤツの魔法で操られているなんて信じられないくらい、いつもどおりの優しい笑みを浮かべていた。
アリーは無言のまま、僕の顎に指をそえた。
導かれるように上を向いた僕の唇に、アリーの唇が重なる。
「!」
柔らかい唇の感触の中から、鼻腔を突き刺すような異様なにおいが漏れてくる。
青臭い、生臭い、男臭い、獣臭い。
ザジの部屋に充満していたあのにおい。
不快感にふるえる僕の唇を割って、アリーの舌がねじこまれた。
同時に、どろりとした、口内に張り付くような、塩辛くえぐみのある液体が流し込まれる。
全身に鳥肌が立った。吐き気がこみあげてくる。気持ち悪い。
だけど突然の出来事にとまどう僕はそれを拒むことができない。
アリーを跳ね飛ばすこともできず、また、それだけの気力もなかった。
長い口づけの間を、ただ背筋をふるわせて耐える。

ちゅぽん。
ようやく、音を立ててアリーの唇が離れた。
流し込まれた液体の大半は口の端から漏らしたけれど、少なからぬ量を飲んでしまっていた。
「な……に?」
僕は泣き濡れた目でアリーを見上げて問う。
「ふふふ。かわいいよ、ジル。ちゃんと女の子の顔してる」
そう言ってから、アリーは答えを口にした。
「おいしかった? ムックの、精液」
むっくの、せいえき。
ムックの、精液。
頭が意味を認識するより早く、腹の奥から強烈な嘔吐感がこみあげてきた。
……犯された。僕の体内を、あいつの体液で犯されてしまった。
それだけしか考えられず、ぼろぼろと涙が流れた。

「アリー、ひどい……ひどいよ」
「ひどい? ひどいのはどっちかしら?」
びくん。
突然の刺激に僕の体が跳ねた。
股間にアリーの手が伸ばされ、僕の女の子に触れたのだ。
「濡れてる」
「え?」
言われて初めて気がつく。
アリーの指が優しくはわされた。
そのぬちょりとした感触は、確かに濡れそぼったそこをいじられる時の感触だった。
「ジル、わたしが犯されているのを見て興奮してたんだ……」
からかうようなアリーの言葉に、僕は混乱した。
興奮してただって? そんなはず、ない。
怖くて、悔しくて、悲しくて、気持ち悪くて……。
だから、濡れていたとしても、それは極度の緊張状態に置かれた生理の悪戯に違いないのだ。
けれど、アリーの声は魔性の響きをもって僕の心に浸透してくる。



もう片方の手が、僕の胸に触れた。
サラシを巻けばきれいになくなる、少しも女の子らしくない平らな胸。
それを、アリーの掌が包み込むように優しく撫で回す。
「う……あ……」
胸の先端にアリーの指が触れるたびに、そこからじんじんとした痺れが広がる。
感じている場合じゃない。それはわかってる。
僕は今、目の前で、得体の知れないムークに恋人を犯されたところなんだ。
だけど、くじけかけていた僕の心は、その痺れるような快感に逃げ場を見出してしまった。
アリーの後ろからこちらを見ているに違いないムックの存在が一瞬かすむ。
気持ちいい。この快楽に身を委ねたい。
「あ……んん、……ふは……ん、や……やめ、て……」
いつしか、僕はアリーの繊細な指使いに身体を合わせていた。
愛撫を愛撫として感じるため、体を昂ぶらせようとしている自分に気づく。
体の芯がきゅっとなった。

「……っ!」
アリーの指先が僕の股間の芯を弾いた。
そこから電撃のようなものが頭まで突き抜ける。
僕は歯を食い縛った。情けないことに、僕はこの状況で小さく達してしまったのだ。
羞恥に顔を背ける僕の耳元で、アリーがそっと囁いた。
「ねえ、聞いて。ジル」
熱い吐息がかかり、僕はぞくりと身を竦ませる。
「わたしね、ずっと不満だったの。……いつもあなたにされてばっかりだったから。
 一度、ジルの『ここ』を、目一杯、かわいがってあげたかったの」
アリーの指先が、僕の女の子の形にそって、つうとはわされる。
達した後で敏感になっていた僕は、哀れなくらい素直に反応した。
腰がふるえる。乳首がぴんと立って、首筋にぞくぞくと何かがこみ上げてきた。

「ジルったら、『ここ』に指を入れるのも嫌がるんだもの」
アリーは僕の入り口を軽くひっかいた。
小さな痛みと快感が走る。
同時に、アリーの舌が僕の耳たぶをちろりと舐めた。
とろり。
僕の中から溢れ出た蜜が、ふとももを垂れるのがわかった。
アリーはその反応に満足したみたいに、顔を離し、にっこり笑って僕を見た。
「でも、そうしなくて良かった」
その笑顔は、おっとりとしたアリーがいつも浮かべるようなとても優しいもので、
そして、同時に少しだけ恐ろしいものだった。
「だって……おかげで貴女の処女をご主人様に捧げられるんですもの」
「……え?」
「大丈夫。あなたも仲間にしてあげる」
意味がわからず問い返す僕に、アリーはそう言って体を横にずらした。

そこで、僕は気づいた。
僕が、何か巨大な存在の影に飲み込まれていることに。
それは、僕の目の前に立って、その巨体で部屋の明かりを遮断していた。
蕩けきった裸の身体を無造作にさらけ出している僕を、
逆光のそいつはぞっとするくらい高い位置から見下ろしていた。
そいつの口が大きく裂ける。

喰われる、と思った。

「い、い、いやあああああああっ!」

僕は絶叫した。


* * *

男に負けたくなかった。
だから、剣の腕もこんなに鍛えた。
男のような格好をして、冒険者なんていう危険な仕事を始めた。
がさつで不潔な男たちへの対抗心と、
自分にない可憐さを備えた女の子への淡い思い。

男が嫌いだから女の子を愛するようになったのか、
もともと女の子が好きだったから、殊更に男に負けまいと思うようになったのか、
どっちが先だったかは、今となってはわからない。

でも、アリーのことは本当に好きだった。
女の子同士なんて条理に反したことだったかもしれないけど、幸せだった。
……なのに、それなのに。

どすん。
煮えたぎった熱い鉄の棒を打ち込まれたような気がした。
「うあ……あ、あ、」
激痛、なんてものじゃない。
意識が吹っ飛ぶほどの衝撃だった。
唇が意味もなくわなないて、まるで新鮮な空気を求めるようにぱくぱくと開け閉めする。
叫び声すら出なかった。

ムックは、後ろ手に縛られた僕の身体をたやすく抱え上げると、
何の予備動作もなしにその巨根で僕を貫いた。
内臓が圧迫される。膣内がみっしりと押し広げられ、体の芯が軋んだ。
傷口を刃物でえぐられて、そのままぐりぐりとこね回されるような、信じ難い痛みが走る。

朦朧としかけた意識の中で、ムックが何か呪文を呟くのが聞こえた。
途端に、破瓜の痛みが引いてゆく。
「ふ……ぐ……うう」
けれども、巨大な異物をねじ込まれた圧迫感までは消えない。
全身にびっしりと汗が浮き上がった。
腰が痙攣したようにふるえて治まらない。
こわばりきった腿の筋肉が悲鳴を上げる。
「はっ、はっ、ふっ、うっ、はっ」
腹部が圧迫されて呼吸もままならない。
僕は矢継ぎ早に浅い呼吸を繰り返して苦悶に耐える。

そして、のそりとムックが動き出した。
それは、先ほどアリー相手に見せた激しい責めと比べたら、いっそ緩慢とも呼べるものだった。
僕のお尻に回した手を、ゆっくりと焦らすように引き上げる。
内臓を引きずり出されるような苦しさに気が遠くなりかけるが、
そのたびにムックの動きは止まり、気絶することすらままならない。
まるで僕が呼吸を整えるのを見計らっているかのような動きだった。
「う……あ、あ、あっ……うあ」
その巨大なカリ首が僕の入り口を押し開くところまで達すると、
今度はじりじりとまた巨大な物をねじこみ始める。
膣内の襞を巻き込んで、僕の体の最奥へと徐々に侵入してくる。
悪寒にも似た感覚が広がり、嫌悪する相手に貫かれる不快感とあいまって
ぞくりとした痺れが全身を冒してゆく。


「はあっ、はあっ、はあっ」
三往復も繰り返した頃には、僕は限界に達していた。
嬲るような緩慢な責めはすっかり僕の体力を奪い去っていたのだ。
滝のような汗がふきだす。途切れ途切れの呼吸は荒く、喘ぐようだった。
あまりにも緊張が続いたせいで、全身の筋肉が萎えてしまったのがわかる。
そこに、再びムックが侵入し始めた。
「……え?」
異変が起こった。
ぞわりと産毛が逆立ち、悪寒のような痺れが全身を痙攣させはじめる。
膣内がぎゅうと収縮しはじめ、引き裂かれるような中の感触が滑らかなぬめりを帯び始める。
ムックの巨大な物がほんの少し沈み込むたびに、全身のふるえがどんどん大きくなっていった。
「や、やだ……こ……こわい、やめて、……い、いやっ」
挿入は止まらない。
「う……そ……?」
得体の知れない波が、大きなうねりになって襲ってきた。
「あ……あ、あ……あああああっ! やあああっ! うあ、いやああああっ!」
それが快感だと気づくより前に、僕はイッていた。

頭が真っ白になる。
その次の瞬間に、体中をかけめぐっていた快感が奔流となって僕をうちのめした。
「うあああ……ひっ……うう、いやああああ」
僕は泣き叫んでいた。
快感の波はいつまでたっても引かなかった。
それは自分で、あるいは、アリーの手で、突起をいじって達する快感とはまるで質が違っていた。
意識を焦がすような快感が体内で荒れ狂っていつまでも反響し続ける。
腰ががくがくとふるえて止まらなかった。
信じられない。こんなヤツに、あんなグロテスクなものを突っ込まれてイクなんて。
「ヒール・ウーンズ」で痛みを消されたからか。
アリーの愛撫で身体が昂ぶっていたからか。
それとも、単に僕が淫乱な女だからなのか。
わからないけど、この快感だけは本物だった。
僕は生まれて初めて膣内での絶頂を知った。
いや、教え込まれたのだ。この、不気味な毛むくじゃらの化け物の手によって。

僕は顔をムックの体毛にうずめていた。
離れたくても、力が抜け切った体はぴくりとも動かなかった。
顔をムックの胸にうずめ、開ききった脚でしがみつくような格好。
一糸まとわぬ姿で、あれだけ嫌悪していたこのケダモノに密着していた。
あのむっとするムックの体臭、獣臭く、オス臭いにおいが僕を包む。
すえた、吐きそうになるにおいだ。だけど、くらくらする。頭がおかしくなりそうだった。
嗅いでいると、膣の奥がじんじんと疼き始める。
結局、僕は女だった。
強くて乱暴な生き物に、ペニスを打ち込まれてしまえば、なんの抵抗もできやしない。
振り回されて、声を喘がせて、よがり狂うしかないのだ。
征服され、蹂躙されてしまえば、男が嫌いとか、ムックが嫌いとか、そんなことは関係なかった。
サムライとしての誇りとか、男への対抗心とか、恋人を奪われた怒りとか、
そんなものはあっけなく打ち砕かれた。
嫌悪する相手、気持ち悪い相手だからこそ、かえって女芯が疼く。
僕は淫乱だった。

「んあっ」
再び、ムックが動き出した。
埋め込まれた巨根がずるりと引き抜かれ、僕はベッドに投げ出された。
物を扱うような乱暴さだった。
そして、うつ伏せにベッドに倒れる僕の尻がぐいと引かれた。
腰を高く掲げ、男をねだるようないやらしい姿勢になる。
僕は抵抗しなかった。抵抗できなかった。そんな気持ちはとっくの昔に粉々に砕かれていた。
「あっ! んっ、あ、あ、あっ」
さらけだされた僕の女の子に、再び剛直が打ち込まれる。
とろとろになったそこは、最初の苦しさが嘘のようにあっさりとそれを飲み込んでいった。


ばしん。
「ひっ!」
高くかかげたお尻に激痛が走る。
ムックが、巨根を突き刺したまま、その手で僕のお尻を叩いたのだ。
ムックにすればほんの手遊び程度の力だったのだろう。
だけど、僕には脳天を突き抜けるような衝撃だった。
ばしん。ばしん。
まるで家畜にふるう鞭のように、容赦なく僕のお尻を平手ではたく。
「痛いっ! やっ、やだっ!」
思わず悲鳴を上げる。それは半分本心で、しかし半分嘘だった。
叩かれるのは、痛い、そして、何よりみじめだった。
けれど、力でオスに支配される悦びに、僕の体はふるえていたのだ。
「あっ、んあっ、んんんっ、うあっ、やっ」
じんじんとした痛みを感じると、意に反して、僕の膣内がきゅうきゅうと中の巨根を締め付ける。
自分でもわかるほど、いやらしい液がどんどん溢れていった。
ムックが手を止める頃には、シーツは僕が飛び散らせた愛液でぐっしょりと湿っていた。

「あああああっ!」
ムックが抽挿をはじめた。
もう、僕は声をおさえなかった。
「ああっ、あっ、あっ、いいっ、んっ、あんっ!」
ムックの巨体がのしかかり、僕はシーツに押し付けられる。
じんじんとはれるお尻にムックの大きく無骨な指が食い込んだ。
開ききった僕の膣は、男をねじこまれて喜びにふるえていた。
「いいっ、うあぁ、いいようっ、ひあっ、あっ、あああっ」
僕は鳴いた。
もう何も考えられない。
涎を垂らしてケダモノのような嬌声を上げ続けるしかなかった。

ムックの物が深く打ち込まれ、僕の真ん中をこづくと、
僕は涙を流して喜悦の悲鳴を上げた。
引き抜かれるときの膣壁をこすり上げられる快感に、
背を反らし、四肢を突っ張らせてこらえる。
「んんっ、うっ、あっ、んんあうっ、あっ、あっ、んあああっ!」
そうして何度目かの絶頂を味わったとき、
僕の中でムックがびくりと脈動した。
ほとんど反射的に腰が逃げそうになる。
しかし、ムックの強靭な手は僕の腰をがっちりとつかんで離さなかった。
どくん。どくん。
「あっ、あっ、あっ、あっ」
熱い液体が注ぎ込まれる。
ムックの精液が、僕の膣内を満たしてゆく。
意識が焼き切れそうだった。全身ががくがくとふるえる。
ぷしゅっと音を立てて、何かが僕の股間からふきだした。
熱い精液がじんわりと僕にしみこんで、心まで犯してゆくようだった。
何かが僕の心に刻み込まれた。
もう、駄目だった。僕はもう、この快楽なしには生きていけない。
沈んでゆく意識の中で、僕はそう確信していた。



* * *

「お、おい。見たか、あれ?」
「ああ、信じられねえぜ」

酒場の一角で、男達のそんな言葉が囁き交わされる。
「むしゃぶりつきたくなるようなイイ女ばっかりだってのによう」
「畜生。なんであんな毛玉野郎に……」
男達の視線の先には、五人の美女を侍らせたムークがいた。
凛とした、高貴な顔立ちの美女がその長身をムークの肩にもたれさせる。
反対側では、美しいフェルパーが舌を伸ばしてムークの毛づくろいをしていた。
伸ばされた両腕は、片方で小悪魔的なホビットの美少女を、
もう片方では儚げなエルフの美少女を抱いていた。
そして、両足の間で床に座った髪の短いボーイッシュな美少女は、
恍惚とした表情でムークの腿に体をあずけていた。
短髪の少女はムークを見上げてうっとりと呼びかける。

「ああ、ご主人様……」

(おしまい)



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